柊 Happy Birthday! – 泡沫のユークロニア =スタッフコラム=

2026.03.26

柊 Happy Birthday!

『泡沫のユークロニア』スタッフコラムをご覧の皆様、こんばんは。
本作のディレクター、ティズクリエイションの高村 旭と申します。



本日は露草&柊の誕生日!
公式XではふたりのRiRiさん描きおろしイラストや録りおろしボイスも
公開されていますが、こちらのコラムでは
はじめてのお祝いとなる柊の小話をお届けします!



※注意※
・この小話は泡沫のユークロニア -trail-
IF STORY 柊ルートのエンディング後設定になります。
・ネタバレ要素はないですが、気になる方は自己責任での閲覧をお願い致します。
・主人公の名前表記はデフォルト設定とさせて頂きます。


――それは、珍しいことだった。


(息抜きがしたい、だなんて)

おかしくはない。

ぼくと添い遂げるため、様々な準備をしている
彼女は常に疲労困憊の身だ。

ただ、自分から弱音を吐くことは少ない。

それに……。


(ぼく自ら禁域を出ることはあるけれど、
 東五の屋敷に来てほしい、というのも
 あまり言われたことがない)

雛菊
「いらっしゃい、柊!」

今か今かと門前で待っていたのだろう。

彼女は、ぼくの手を引き、屋敷へ招き入れる。


(これもまた珍しい)

ぼくが市井を訪れる日は、凍玻璃の視察、という名の
街歩きをすることが多いから。

不思議だなと首を傾げながらリビングに入り、
ぼくは思わず、目を瞬いた。


「これは……?」

食卓には異国風の料理が並んでいる。

禁域では東瀛風の料理がほとんどになるから、
ぼく自身はあまり馴染みがない。

たぶん、海老か何かが入っているグラタンと、
ガーリックバターバゲット。

それと、黄のスープ。とうもろこし、かな。

雛菊
「誕生日おめでとう、柊! 今日はふたりきりで
 お祝いしたくて……」

雛菊
「……これ、わたしが作ったの」


「えっ」

雛菊
「先月からこっそり淡雪に習ってたんだ。
 ちゃんと味見もしたよ」

はにかむ彼女と卓上を見比べる。
確かに、淡雪が作ったにしては品数が少ない。

そして、ぼくの誕生日は露草なら知っているはず。

雛菊
「冷めないうちに食べて」


「…………」

大樹という存在は、『個』ではない。

最近まで、ぼくのことを柊と呼ぶ人は稀だった。

時折、元帥が。さらに時折、宰相が。

あとは誰しも『大樹』と呼ぶ。


(それが、当たり前だったのに)

もうずっと祝われることはなかったから、
『柊』の誕生日など、ぼく自身も忘れていた。

こんな贅沢が許されていいのかな。


「……雛菊」

雛菊
「?」

呼ぶと、彼女は不思議は首を傾げた。

無防備に近づいてきた彼女の、その頬を
包み込むように両手で触れる。

その輪郭を確かめるように引き寄せ、
ぼくは小さく息を零した。


「きみはいつも、ぼく自身が取り零してしまう
 『柊』を見つけてくれるね」

前髪越しに額を触れさせる。

近すぎて、彼女が今、どんな表情を
しているのかもよく見えない。

微笑んでいるのか、照れているのか。

いつになく気恥ずかしくて直視もできず、
今はこの距離がちょうどいい。


「……ありがとう、雛菊。……大好きだよ」

彼女を捕まえたまま、唇を重ねた。

零れる吐息さえ、ひどく甘く感じられて
なかなか止められない。

それを確かめるように、幾度も繰り返し――

顔を離す頃には、彼女の頬は可哀想なほど
熱を持っていた。


「きみは油断しているかもしれないけれど」


「……ぼくもちゃんと、年頃の男だからね?」

雛菊
「っ……」

顔を真っ赤にしたまま、彼女は拗ねたように
ぼくを睨んだ。

雛菊
「……油断、してないのに……」

その表情がますます可愛らしく思えてしまい、
さらに触れたくなった。

けれど、距離を縮めようとしたぼくのことを、
彼女は両手を突っ張って押し留める。

さすがに強引すぎたかと反省したのだけれど……。

雛菊
「で、でも、ごはんが先……。冷めちゃうから……」

彼女は恥ずかしそうに小さな声で言う。


「……あとでなら、いいのかい?」

雛菊
「…………」

彼女は顔を赤らめたまま、頷いた。

雛菊
「今日は、淡雪もいない、から……」


「……わあ」

ぼくも男だ、ということの意味を本当に
わかっているのかどうか。

我慢できなくもないと思いたいけれど、そもそも――


(ぼくたちって、我慢する必要、あるのかな……?)

そう問う前に、まずは気持ちを落ち着けて
確認しておこう。

とても、大切なことを。


「ねえ。きみの誕生日は、いつ?」

雛菊
「わたしは――」

彼女の誕生日は、ぼくも同じように真心を込めて
祝ってあげたい。

そう遠くない未来に想いを馳せ、ぼくたちは
優しい食卓を囲んだ。


ということで柊(露草も!)、誕生日おめでとうございました!

ぜひ皆様もお祝いしていただけたら嬉しいです₍₍(∩´ ᵕ `∩)⁾⁾

edited by :
高村さん