L’amour est le miracle
de la civilisation.
――Charles Route
side:Rudy Rochefort
管理局の広間に旅行客がひしめいている。
その様相を眺めながら、ユリスが耳打ちしてきた。
「……ねえ、ルディ。本当に居合わせた全員を連れてくる必要なんてあった?」
「仕方ないでしょ」
溜め息混じりに切り捨てる。
「僕だって好き好んで指示したわけじゃない」
――騒ぎが大きくなりすぎた。
今回の件。現場に居合わせた人間は、魔術の片鱗を目にしたに違いない。
(それが超常のものだとは、まだ気づいてないだろうけど……)
時間が経てば冷静になる。
そして、余計なことを考える。
(あの不気味な出来事は何だったのかって。……それは、ミラージュのために良くない。迷惑だ)
そんな記憶を島の外に持ち出されては困る。
管理局として、厳重に口封じをしなくちゃならなかった。
「……けど、俺の負担が大きすぎると思わない?」
「それも仕方ない」
今回の聴取には技術が必要だ。
優秀な局員――自分で言うのは気が引けるけど、つまり、僕のような局長、彼のような副局長が核心を受け持つのは当然だろう。
「それと」
僕は何気なく切り出した。
けど、譲る気はないから、はっきりと断言する。
「『彼女』の聴取は僕がするから」
「彼女って――」
ユリスは怪訝そうに呟いたけど……。
僕の視線が向かう先を見て、じきに気づいたらしい。
「あー、はいはい。お好きにどうぞ」
彼は呆れたように手を振った。
まるで、無意味なことにこだわっている、とでも言いたげだ。
(……失礼な)
僕は冷静だ。
理由もなしに誰かを警戒したり、敵意を持ったりなんてしない。
「じゃあ、次の人お願いしますー。……えーと、ジャック・レスターさんですね?」
ユリスは他の旅行者を別室に連れていく。
彼らが視界の端から外れても、僕はまだ彼女を見つめていた。
(というか……)
複雑な感情が胸を過ぎる。
率直に言えば、これは――不満だ。
(どうして、彼女がシャルル・パラディールと一緒にいるの?)
彼らは聴取の順番待ちをしながら、壁際で何か話している。
ミラージュを訪れる前からの繋がりがあったのか。
それとも島に来てから親しくなったのか
(詳しい経緯は、僕にはまったくわからないけど。結構、親しげに見える……)
彼女は何者なのか。
おかげで余計にわからなくなった。
何と言っても、あのシャルル・パラディールだ。
(モンマルトルのシャンソニエ。こんな孤島にまで、その名が聞こえてくるほどの天才的な役者であり、歌手……)
すでに流行りの廃れた夢幻劇を再興し、劇壇に新たな歴史を刻んでいる。
(……と、僕は思う)
彼を絶賛する劇評を何度読んだことか。
シャルルの舞台をこの目で見ることができたら、と思ったこともある。
「そう緊張することはないさ」
よく通る彼の声は、ここまで聞こえてきた。
「まさか、街中で全員の聴取をするわけにもいかないだろう? 手間ではあるけれど、これは管理局としても仕方のない連行だ」
「はい……」
僕は耳を澄ませた。
別に、彼らの会話に興味があるわけじゃないけど。
魔術について話していないかは、知る必要がある。
「無辜の民を不当に拘束はしないだろうし、俺たちは、あの場で目にしたありのままを話せばいい」
彼女は小さく頷いた。
シャルルの顔を見上げ、不安そうに言う。
「……あの子は、大丈夫なんでしょうか?」
今回の件では被害者が出た。
彼女は、その安否を案じているようだ。
「――さて」
シャルルは曖昧に微笑む。
「残念ながら、それは俺にもわからない」
「あ……。すみません、変なことを聞いて……」
彼女の顔色は良くない。
今にも倒れてしまいそうな気がする。
けど、案外気丈なのか、足元はしっかりしている。
(……別に心配してるわけじゃない)
僕は冷静に観察しているだけ。
(あの子は、まるで何も知らないように見えるけど)
彼女の立場を思えば、本当に何も聞いていないとは考えにくい。
あの頼りない見た目に騙されては駄目だ。
(外の人間を懐に入れるのは危険だ)
島民以外は信じられない。
彼らはあまりにも欲望に忠実すぎる。
結局は、ミラージュに与えられる恩恵を我がものにしようとしか考えていない。
(僕は管理局長として、よく見極めないと)
本心を隠しているんだとしたら。
何かを企んでいるんだとしたら。
(それが、ミラージュに害を与えるようなことなら……容赦しない)
いい機会だ。
今日は彼女の化けの皮を剥がしてやる。
僕の『聴取』で、真実を喋ってもらおうじゃないか。


