石蕗 Happy Birthday! – 泡沫のユークロニア =スタッフコラム=

2025.09.24

石蕗 Happy Birthday!

『泡沫のユークロニア』スタッフコラムをご覧の皆様、こんばんは。
本作のディレクター、ティズクリエイションの高村 旭と申します。



本日は石蕗の誕生日!
公式XでRiRiさんの描きおろしイラストや録りおろしボイスも
公開されていますが、せっかくですのでこちらのコラムでは
小話をお届けします!



※注意※
・この小話は泡沫のユークロニア -trail-
IF STORY 石蕗ルートのエンディング後設定になります。
・ネタバレ要素はないですが、気になる方は自己責任での閲覧をお願い致します。
・主人公の名前表記はデフォルト設定とさせて頂きます。


***

1週間前――

雛菊
「石蕗様!」

石蕗
「はい。どうしました、雛菊嬢?」

雛菊
「もうすぐ石蕗様の誕生日ですよね?
 何か欲しいもの、ありませんか?」

石蕗
「ああ、いえ。お気持ちはうれしいですが、
 もう祝うような歳ではないですから」

雛菊
「えっ……」

石蕗
「そのお気持ちだけで充分です」

雛菊
「……わかりました!」

***

今日は、長月の二十四日。俺の誕生日だ。

特に予定はない。強いて言えば……。

黒鶴に出仕し、勤務し、帰宅する。

石蕗
「…………」

ちなみに、俺には婚約者がいる。

凍玻璃という街と、そこに住む人々に対し、
優しくも真摯な東五の当主殿。

そして、俺のことを好いてくれる
とても愛らしい女性だ。

特に連絡はない。

石蕗
「……………………」

石蕗
(い、いや。本当に、特別なことは
 何もなくていい。……しかし……)

石蕗
(祝いの言葉だけでももらえないかと、
 叶うなら共に過ごしたいと思うのは、
 女々しい発想だろうか……)

――そして、夕刻。

藍白
「上司がいつまでも残ってると、他が
 帰りにくいんですよ。困りますって!」

気遣い屋の部下に叱られ、俺はいつもより
少し早い時間に司令所を出た。

すると――

石蕗
「……雛菊嬢!」

雛菊
「石蕗様、お疲れ様です!」

俺の大切な婚約者が待っていてくれた。

石蕗
「どうなさったんです? もしや――」

雛菊
「ちょうど柳営に行く用事があって。
 この時間なら石蕗様に会えるかもって
 思って寄ったんです」

石蕗
「……そう、ですか」

深い意味のない偶然。なるほど。納得だ。

雛菊
「もし良かったら、うちでお茶しませんか?
 淡雪がお菓子を焼いてくれたんです」

石蕗
「ええ、もちろん構いませんが――」

石蕗
(……これは……忘れられている……?)

彼女の態度は常と何も変わらない。

石蕗
(いや、彼女は忙しい方だ。婚約関連で
 さらに手間を取らせてしまっている)

石蕗
(俺の生まれた日付などという些事まで
 覚えておけというのは傲慢だ……)

***

通い慣れた雛菊嬢の屋敷に向かい、
そのリビングに足を踏み入れた途端。

石蕗
「――え――」

俺は思わず目を見張った。

壁と天井には手作りらしい紙の飾りと、
色鮮やかな生花。

卓上には、いかにも祝宴のために
用意されたと思しき、豪華な料理たち。

雛菊
「ごめんなさい。石蕗様はもう祝うような
 歳じゃないって仰ってましたけど……」

雛菊
「ささやかにお祝いはさせてほしくて、
 準備しちゃいました」

雛菊
「今日は石蕗様が早めに帰れるように、
 藍白さんにお願いして」

石蕗
(そういえば、藍白は彼女に
 言われるがままだった……)

過去にも彼の協力によって、
退路を断たれたことがある。

雛菊
「贈り物は消えものにしようと思って、
 ちょっと恥ずかしいんですけど、
 ……て、手紙を書きました」

石蕗
「雛菊嬢……」

俺はとても胸を打たれた。

石蕗
「ありがとうございます。
 大切に読ませていただきますね」

雛菊
「……重くないですか?」

石蕗
「当然です。あなたは、俺が一番してほしいと
 思ったことをしてくれました」

石蕗
「まあ、強いて言うなら……」

雛菊
「は、はい!」

石蕗
「……できれば、もう少し早く教えてほしかった。
 忘れられているのではないかと、
 不安になりました……」

雛菊
「えっ」

彼女は目を瞬くと、俺をまじまじと見つめ、
それから柔らかく微笑んだ。

雛菊
「石蕗様、もしかして拗ねてます……?
 ……かわいい」

石蕗
「す、拗ねてはいないですが」

表情を隠そうと口元に手を当て、続ける。

石蕗
「覚えていてくれたらいいとは思いました。
 ですが、俺から誕生日を一緒に過ごしたいと
 いうのも申し訳なく……」

雛菊
「石蕗様が嫌じゃなければ、これからも
 誕生日をお祝いさせてほしいです」

雛菊
「大好きな人が生まれてきた日は、
 とっても特別ですから」

……我ながら年甲斐がないと思うし、前言を
撤回するのはどうかと思うが……。

石蕗
「……あなたさえ良ければ、ぜひまた来年も
 俺のことを祝ってほしいです」

そう伝えると、俺の婚約者は迷惑がることもなく
うれしそうに笑ってくれる。

彼女のおかげで、誕生日というものを
これまでより大切に思える気がした――




ということで石蕗、誕生日おめでとうございました!

ぜひ皆様もお祝いしていただけたら嬉しいです₍₍(∩´ ᵕ `∩)⁾⁾

edited by :
高村さん