矢代 Happy Birthday! – 泡沫のユークロニア =スタッフコラム=

2024.06.02

矢代 Happy Birthday!

『泡沫のユークロニア』スタッフコラムをご覧の皆様、こんばんは。
本作のディレクター、ティズクリエイションの高村 旭と申します。

発売からあっという間に一ヶ月半ほどが過ぎまして(本当に?)
月日の経過の早さに驚いている今日この頃です。


本日は矢代の誕生日!
公式XでRiRiさんの描きおろしイラストや録りおろしボイスも
公開されていますが、せっかくですのでこちらのコラムでは
小話をお届けします!



※注意※
・この小話はエンディング後設定になります。
・ネタバレ要素はないですが、気になる方は自己責任での閲覧をお願い致します。
・主人公の名前表記はデフォルト設定とさせて頂きます。


その日。

姫様は執務と視察の合間を縫って、
俺の店を訪ねてきてくれた。

できれば会いたいと思っていたから、
とても都合がいい。

矢代
「ねえ、姫様。露草に聞いたんだけど」

矢代
「凍玻璃には自分が生まれた日付を
 祝う風習があるそうだね」

雛菊
「誕生日のこと?」

姫様の瞳が少し大きくなる。

どことなく猫みたいな表情の変化さえ
愛らしくて、俺は無意識に口元を緩めた。

雛菊
「異国から伝わってきた風習なんだって。
 向こうでは君主の生まれを祝ったりする
 お祭りもあるみたい」

雛菊
「貴族には誕生日って文化が浸透してるけど、
 街の人はそこまで意識してないかな……」

雛菊
「ほら、東瀛では数え年が主流でしょ?
 それは凍玻璃も同じなの」

矢代
「なるほど」

姫様は意外と博識だ。

俺がこういう質問をして、答えが
返ってこないことがない。

良くも悪くも、利口ぶらないから
知性が目立たないところは、少し面白い。

雛菊
「……何か失礼なこと考えてる?」

矢代
「姫様はかわいいなあ、と思った」

雛菊
「…………」

照れているみたいだ。本当にかわいい。

彼女と知り合ったばかりの頃……。

特に何も感じないのに、とりあえず
『かわいい』と言っておけばいいかと
思っていた自分が懐かしい。

矢代
「年齢を重ねることの意味は
 なんとなくわかるけど、日付にまで
 こだわるのは少し独特だ」

雛菊
「慣れると楽しいんだよ?
 1年に1回だけ来る特別な日、って」

矢代
「そうなんだ。……ところで、姫様」

雛菊
「なに?」

矢代
「俺の誕生日は水無月の2日だよ」

雛菊
「えっ」

雛菊
「それ、って」

雛菊
「……もしかして、今日、じゃない?」

矢代
「正解」

期待した通りの反応がもらえて、愉快だ。

微笑む俺を大きな瞳で見つめ返して、
彼女は小さく悲鳴のような声を上げた。

雛菊
「ど、どうしてもっと早く
 教えてくれなかったの……!」

矢代
「姫様が驚くかなと思って」

雛菊
「もう! 矢代の誕生日なら、しっかり
 準備してお祝いしたかったよ」

矢代
「……というと?」

雛菊
「露草や帷も呼んで、みんなでお祝いして、
 淡雪が作った美味しいごはんを食べて、
 最後にプレゼントを渡す!」

雛菊
「なのに、何も用意できてない……」

矢代
「ぷれ……」

雛菊
「あ、贈り物のこと」

矢代
「物質に頼らなくても、姫様はいくらだって
 俺を喜ばせることができるよ?」

何か感づいたのか。

少し表情を変えた姫様が何か言う前に、
綺麗な笑顔を作る。

矢代
「キスして、姫様」

矢代
「頬でもいいよ? ね、お願い」

逃げ道を塞ぐように言葉を重ねると、
彼女の肩がわなわなと震えた。かわいい。

矢代
「ねえ――」

照れているんだよね。

君はこういうことに慣れていないから
反応が初心で可愛らしい、だなんて。

俺が呑気に考えていたら。

矢代
「っ……」

白い手が俺のループタイをぐいっと掴み、
顔を引き寄せられて、気づけば――

しっかり唇を奪われていた。

矢代
「…………わあ」

雛菊
「……だ、だって……」

笑うこともできなくなった俺を見て、
今更、顔を赤らめた姫様が小さな声で
拗ねたように抗弁する。

雛菊
「……矢代がしてって、言うから……」

矢代
「…………」

どうしよう。

心臓がおかしくなったらしくて、
耳の奥から自分の鼓動が聞こえる。

赤面して縮こまる彼女を見つめる俺も、
顔が熱くて仕方ない。

矢代
(……どうしよう)

姫様って。愛しい人って、どうして、こう。

俺が今日まで想像したこともないような、
衝撃ばかりくれるんだろう。

矢代
「……ねえ、姫様」

矢代
「誕生日って、素敵だね」

長い時間をかけて、やっと絞り出した俺の一言に。

彼女は今日も愛らしい笑みを返してくれた。




ということで矢代、誕生日おめでとうございました!

ぜひ皆様もお祝いしていただけたら嬉しいです₍₍(∩´ ᵕ `∩)⁾⁾

edited by :
高村さん